No.68 携帯電話と情報モラル教育

①携帯電話の学校持ち込みについての通知
 平成21年1月30日の文部科学省からの通知で、小・中学校では、学校に携帯電話を持ち込むことは原則禁止にするよう求められました。
 その通知に示されている内容は以下の通りです。

 児童生徒の学校における携帯電話の取扱いに関する方針等については、「児童生徒が利用する携帯電話等をめぐる問題への取組の徹底について(通知)」(平成20年7月25日付け20文科初第49号初等中等教育局長、スポーツ・青少年局長通知)により既に通知したところですが、今般の「学校における携帯電話等の取扱い等に関する調査」(20初児生第29号)の結果(別添参照)を踏まえて、学校及び教育委員会の取組の基本とすべき事項を示しましたので、貴職におかれては、下記の事項に十分ご留意の上、関係部署、関係機関と連携しつつ、学校における携帯電話の取扱い、情報モラル教育の充実等について、これまでの施策や方針の検証・見直しを行うなど、各地域の実情に応じて更なる取組の充実を図るようお願いします。  なお、都道府県・指定都市教育委員会にあっては所管の学校及び域内の市区町村教育委員会等に対して、都道府県知事にあっては所轄の私立学校に対して、この趣旨について周知を図るとともに、適切な対応がなされるようご指導をお願いします。

                    記

1.学校における携帯電話の取扱いについて  

学校及び教育委員会においては、学校における携帯電話の取扱いに関して、各学校や地域の実態を踏まえた上で、次に示す指針に沿って、基本的な指導方針を定め、児童生徒及び保護者に周知するとともに、児童生徒へ指導を行っていくこと。  

指導方針の作成及び実施に当たっては、あらかじめ児童生徒や保護者等に対し、指導方針と併せて携帯電話の学校への持込みの問題点について周知を行うなど、学校の取組に対する理解を得つつ、協力体制を構築すること。

(1)小学校及び中学校

1 携帯電話は、学校における教育活動に直接必要のない物であることから、小・中学校においては、学校への児童生徒の携帯電話の持込みについては、原則禁止とすべきであること。

2 携帯電話を緊急の連絡手段とせざるを得ない場合その他やむを得ない事情も想定されることから、そのような場合には、保護者から学校長に対し、児童生徒による携帯電話の学校への持込みの許可を申請させるなど、例外的に持込みを認めることも考えられること。このような場合には、校内での使用を禁止したり、登校後に学校で一時的に預かり下校時に返却したりするなど、学校での教育活動に支障がないよう配慮すること。

(2)高等学校

1 携帯電話は、学校における教育活動に直接必要のない物であることから、授業中の生徒による携帯電話の使用を禁止したり、学校内での生徒による携帯電話の使用を一律に禁止したりするなど、学校及び地域の実態を踏まえ、学校での教育活動に支障が生じないよう校内における生徒の携帯電話の使用を制限すべきであること。

2 学校が学校及び地域の実態を踏まえて生徒による携帯電話の学校への持込みを禁止することも考えられること。

(3)教育委員会  

 教育委員会においては、各学校における携帯電話の取扱いが適切になされるよう、上記(1)及び(2)に関する基本的指導方針を定めて学校に対して示すなどして、所管の学校に対する指導を徹底すること。

2.学校における情報モラル教育の取組について  

 学校への携帯電話の持込みの禁止や、使用禁止を行うことだけでは、児童生徒を「ネット上のいじめ」やインターネット上の違法・有害情報から守ることはできないことから、このような情報化の影の部分への対応として、他人への影響を考えて行動することや有害情報への対応などの情報モラルをしっかりと教えることが重要であること。  平成21年4月から小・中学校で一部先行実施される学習指導要領においても、総則において各教科等の指導の中で「情報モラルを身に付け」ることが明記されており、「児童生徒が利用する携帯電話等をめぐる問題への取組の徹底について(通知)」(平成20年7月25日付け20文科初第49号初等中等教育局長、スポーツ・青少年局長通知)に示した点にも留意して、より一層情報モラル教育の充実に取り組むこと。

3.「ネット上のいじめ」等に関する取組の徹底について  

 各学校及び教育委員会においては、上記の情報モラル教育の充実とともに、「いじめの問題への取組の徹底について」(平成18年10月19日付け18文科初第711号初等中等教育局長通知)を踏まえ、「ネット上のいじめ」を含むいじめ等に対する取組の更なる徹底を進めていくこと。  その際、各学校等において、「『ネット上のいじめ』に関する対応マニュアル・事例集(学校・教員向け)」(平成20年11月、文部科学省)なども活用すること。

4.家庭や地域に対する働きかけについて  

 「ネット上のいじめ」等は学校外でも行われており、学校だけでなく、家庭や地域における取組も重要である。携帯電話を児童生徒に持たせるかどうかについては、まずは保護者がその利便性や危険性について十分に理解した上で、各家庭において必要性を判断するとともに、携帯電話を持たせる場合には、家庭で携帯電話利用に関するルールづくりを行うなど、児童生徒の利用の状況を把握し、学校・家庭・地域が連携し、身近な大人が児童生徒を見守る体制づくりを行う必要があること。  

 学校・教育委員会等は、児童生徒を「ネット上のいじめ」や犯罪被害から守るために、引き続き、保護者を始めとする関係者に対し、効果的な説明の機会を捉えて携帯電話等を通じた有害情報の危険性や対応策についての啓発活動を積極的に行い、家庭における携帯電話利用に関するルールづくりやフィルタリングの利用促進に努めること。

 

②携帯電話利用の実態と問題点
 文部科学省の通知に示されているポイントは一々がもっともである。授業中に携帯電話を必要とする場面はない。着信音が鳴ったり、メイルを打つのに必死であったりすると困るというのも分かる。また、出会い系サイトへのアクセスも基本的には携帯からである。掲示板への書き込みやネット上でのいじめなども、やはり携帯電話の存在が大きい。
 しかし、ここで注意したいのは「携帯電話」はおそらく「たばこ」と同じ道をたどろうとしていることだ。授業をきちんと受けるかどうかは「携帯電話」の所有とは関係がない。出会い系サイトへのアクセスも学校裏サイト掲示板でのいじめも「携帯電話」の所有が第一因ではない。これは分かり切っていることなのだが、教育現場がこのような状況をどのように捉え、どのように解決しようとするかにある。
 文部科学省が携帯電話の持ち込み禁止を通知するのは結構なことだが、だからといって携帯電話を持っている子供たちが学校に持ってこなくなるわけではない。個々の学校が、もしくは個々の教師が、直接子どもたちと向き合って持ってこさせないようにする具体的な方法を考えないといけない。文部科学省には、マニュアルでもいいから具体的な解決方法を何通りか提示してもらいたいものだと思う。これを教育委員会レベルで統一することは難しいだろうなあ。いろんな学校の実状に合わせてやっぱり学校レベルの取り組みになるのだろうと思う。

 「持ってきたら取り上げる」・・・これはポケベル時代だからもう十何年も前にやってみた方法だけど、携帯電話なんかは、保護者が出てきて、没収期間中の携帯利用料金を教師に請求したりする話を聞いて驚いたことがある。

 「子どもに持たせないように保護者に通知する」・・・これもだめだろうな。タバコと違って、携帯電話は日常生活の実用性や利便性に加えてGPS機能なんかで子どもに持たせておくことが安全策になる点もあるから、一概に所有すること自体を禁止することはできない。

 「持ち物検査」・・・これも最近ではプライバシーの侵害などに関わって微妙な方法になりつつあるから。学校にいる時間帯だけ教師が預かる。一番行われるような方法だが、メイルの内容を見た、見ないだとかいう問題も具体的には起きてきそうな気がする。

 いずれにせよ持ってくることを物理的に禁止する方向で指導すると、鼬ごっこになることは目に見えている。タバコを持ってこさせないようにする。かつては持ち物検査をし、ニコチン検査をし、校内の見回りをしと高校生たちと鼬ごっこをしていた私としては、現在のような健康教育、禁煙教育しかないように思えてならない。

 この方向性は対処療法ではないので時間がかかる。理想ではない部分も大きい。毎時間携帯をならす集団に対して、授業を中断して情報モラル教育をするわけには行かないのだ。

 だが、一方で携帯電話に関しては、所有の問題よりも、使用の問題を学ばせる必要性は高い。持ち込み禁止かどうかということとは別にである。社会人になったときに携帯電話をどのように利用することが求められるのか。モラルの問題だけではなく、仕事をするためのツールとしても学習する必要があるだろう。

 

 

③潜在化するいじめに対して
 携帯電話の問題の中で一番根が深いのは、いじめを日常化、潜在化させる便利なツールになり得る点である。今まではいじめも家に帰ればセーフティーゾーンだったわけだが、現在は携帯やネットで家の中まで追っかけてこられる。こうなると逃げ場が無くなる。これは非常に深刻である。しかも、掲示板への書き込みなどは、対面性が無いだけで暴走しやすく、離れた人間同士がことばだけで暴走すると止まらなくなってしまう。

 子どもたちが家に帰って、夜な夜な掲示板で何をやっているかなどということを教師はどうやって把握すればよいのだろうか。子ども同士の関係が、学校を中心にしなくなっている現在の状況で、その関係自体を見守り、指導していくことが教師にできるのかという点が一番問題のなのではないだろうか。

 しかし、ネット上や携帯サイト上でのやりとりを監視できるシステムを作ること自体がプライバシーの問題を含み混んでいるために、システム構築も非常に困難を極めている。