No.47  バウチャー制度

①成立の背景
 バウチャー(voucher)とは、利用券や引換券を意味する英語であり、個人を対象とする使途制限のある補助金の一種である。
もともとバウチャーのアイデアは19 世紀中頃のフランスに遡るとされるが、学校教育機関規制緩和に関連づけたものとしてはアメリカの経済学者であるミルトン・フリードマンがその著書『選択の自由』の中で提唱したものである。
 アメリカではミルウォーキークリーブランドといった都市で学校バウチャーが導入され、スウェーデンでは1993年に国家規模で義務教育段階に学校選択の方法としてバウチャーが導入された。イギリスでは保育に利用されたことがあるという。
 簡単にいえば、市町村が、もしくは国が、子どもに学校の利用券を渡し、それを持って自分が行きたい学校に行く。学校では、その券を回収し、公共機関で換金し、学校の資金を得る仕組み。だから人気のある学校は資金をたくさん手に入れるし、人気の無い学校では教師の給料さえままならない状態が来るということで嫌がおうにも学校間の競争が生じ、公教育の質が向上するというもの。果たして本当にそうなのか?

 

②この制度の長所
 実際にこの制度を実施するかどうかは別として、ある意味で現代的な規制緩和策の一つだなあと実感する。子どもに生きた医学校を選択させるといっても、どの範囲でどの程度選択させるか、がまず問題となるだろうし、親はそれぞれどういった基準で学校を選択するのか予測がつかない。
 授業の充実した学校がよいのか、先生が充実した学校がよいのか、と考えてみるが、実際には家から一番近いところとか、荒れていない学校とか、英語が進んでいる小学校とか、進学率が高い中学校とか、いろんな基準が考えられる。

 近年学校の個性化が推進されているが、そういった流れに一層拍車をかけ、学校が独自のカリキュラムや売りになる個性を社会に対して提案して行かざるを得ない。これは変な意味で学校や教員を安心させていた平等主義や共通のカリキュラム共通の教科書採択などを完全に崩して行くに違いない。

 重要なのは利用者の価値観が多様であることである。学力や進学一辺倒の基準が横行したならば、学校は個性化が進むどころか極度の競争が生じてしまう。

 またバウチャー制度を導入する利点として考えられるのは、教育のサービス化の推進だ。サービスが悪いと途中で別の学校に転校しても構わないという点まで導入するならば、いじめや不登校の一つの解決策になる可能性は高い。本質的な解決ではないが・・・。

 

 

③バウチャー制度の問題点
 僕なんかが非常に懸念しているのは、先にも述べたことだが、学校間の競争をあおりはしないかということだ。多様な価値観と入っても優先順位からいうとやっぱり保護者が考えるのはいい学校に入れたいということ。いい学校とは何かということも広いようで実は狭い。荒れた学校よりも落ち着いた学校で子どもに教育を受けさせたいと考えるし、いい先生に受け持ってもらいたいと願うものである。そうすると人事にもゆがみが生じるし、へたすると地価が変に急騰することもあるだろう。
 またいい学校といわれた学校では人数がパンク状態になった場合どうやって選抜するのかなあなんて考えたりもする。
 荒れた中学校には誰も行かなくなったりして、結局うまくはいかないのかも知れない。
 先日東京の先生とこの話をしたときに、東京などの都会での受け止め方と福井など地方での受け止め方には大きな隔たりがあるという話になった。私学の多い都会ではバウチャー制度は有効に働くかも知れないが、公立学校が多い地方では結構以前と同じように近所の学校に通うだけかも知れないと思ったりする。
 通学距離なんかで制限をかけると、いい学校の近所が高級住宅地化してしまい、荒れた学校の周辺がスラム化したりする危険性もある。
 実施する可能性は高いが実施する上で様々なことに配慮しなければ結局公教育制度自体が崩壊してしまう危険性がある。