No.63 幼小連携

①取り組みの起こり
 幼小連携に関しては、文部科学省中央教育審議会幼児教育部会などで、幼稚園と小学校の連携を模索する動きがあったことが最初なのではないかと考えているが、10年ほど前から、12年一貫教育など小中高等学校の連携を模索する動きがあり、それから分派したものとも考えられる。文部科学省のページ いずれにせよ、現在では研究開発学校制度の中で熱心に取り組まれている研究であることには相違ないだろう。研究開発学校制度

 

 

②一貫校という考え方
 基本的に、一貫校の構想は、いくつかの理由によって生じてきている。
①一貫校として考えることで詰め込みすぎている学習内容をスリム化することができるという考え
②分断された学校間の関係を密にすることでより効果的な学習者支援が進められるという考え
③学校間の教員の人事交流を促進することで、教師が学習者の発達を長いスパンで捉えることができるようになるという考え

 確かに学校間の境目の時期は学習内容に重なりがある。例えばそれは、幼稚園の年長組と小学校一年生であったり、小学校6年生と中学校一年生であったりする。この時期の学習内容の重なりが、学習者にとってどのような意味を持っているのかということがこの問題を肯定するか否定するかという立場に関係している。
 肯定的に学習内容の重なりを捉える人は、この重複を丁寧な学習保証として捉えるし、否定的な人は、無駄な繰り返しと捉える。みなさんはこの点をどのように考えるのだろうか。

 

 

③連続性と分断
 現在の実践研究の動向が比較的この一貫校の構想に対して肯定的な流れを呈しているので、あえてこの流れに否定的に考えるとどうなるかという点を述べておきたい。
 まず、幼小連携の場合は併せて8年から9年同じ環境で学習者は学校生活を送ることになる。これと同様のことが、小中連携でも言える。これは顔なじみになったり人間関係が安定するという意味では良いのかもしれないが、学校生活とはそれほど緩やかなものではない。悪化した人間関係を引きずりながら学年を上げていくことがどれほど大変かということも考えておきたい。学習者同士の関係もそうであるが、教師と学習者の関係や教師と保護者の関係も悪化すれば大変苦労する実状がある。短い年限で学校が変わるとなると、そういった悪化した関係は必然的に分断されることによって解消されることも多々ある。
 さらに、学習者自身がリセットする機会として小学校入学や中学校入学を考えてみたらどうだろうか?国語は小学校の時は苦手だったけども、中学校に行ったら気分一新してがんばってみよう。などということを言う子どもは案外多い。教科だけでなく、学校や先生、勉強そのものにネガティブな学習者の意識がリセットされて、ポジティブになる可能性を帯びてくるのもこういったリセット機能のおかげだったりする。
 三つ目に、こういった学校間の分断が、学習者自身の学びの軌跡を振り返る良い機会になり、自分の将来についても思いを巡らせることを促す場合が多いということが考えられる。

 

 

④幼小に限ると
 いささか一貫校のことに触れすぎたので、幼小連携について考えてみる。連携であるから学校自体は別なのだ。情報を共有したり、人事交流を活性化したりする取り組みだから、そういう意味では様々な効果が発揮される可能性が高い。
 私は小学校にはいることが多いので小学校のサイドから幼稚園を眺めてみると、活動を通して学ぶなどという最近の学習パターンはもともと幼稚園などでは遊びを通して学ぶという理念に近いところがあり、そこで開発された学習方法や教師の関わり方など小学校の先生方が学ぶべき要素を幼稚園はたくさん備えている。
 また、そういう意味では教室での一斉指導において見失われがちな学習者個人個人への手当や観察のあり方など、人員数の問題はあるにせよ併せて参考になることは多いと思う。
 さらに、幼稚園は基本的にTTなので、複数の教師が協力して一つのクラスを担当する中で生み出されてきた効果的なノウハウなども小学校の先生には役立つだろう。

 アメリカなどでは、小学校に入学するための準備学習期間を一年なり班としなり設定している州が多いが(プリマ・プレプリマ)これは、小学校に入学してから学ぶ学校生活の基本的な学習習慣を身につけさせることを目的にしたものが多く、幼稚園の子どもたちが小学校にやってきて、机に座って先生の話を聞いたり、整列したりする事を通して集団で学習するための基本的な学習態度を身につけるものである。
 こういった就学前指導は日本でも行われているところもあるがまだまだ充実したものとは言えないのが実状である。まあ、アメリカなどでは、人種も多様だし、英語の学習なども早い時期から行わないと本当に小学校で全く学習できる状況にない子が出てしまうという実状もあるためなのだが・・・。
 いずれにせよ、幼稚園の先生方が、小学校で何をしているのかということを具体的にイメージできれば、それに向けて学習内容を考えていく機会は増える。

 余談になるが、小学校の教科書などを作っていると、幼稚園ではいろいろなことばの学習をしていて、逆に小学校一年生の教科書の方が易しすぎるのではないかと不安になることもある。これは音声言語と文字言語の異なりでもあるのだが、日本の子どもにもっと早くから文字言語を習得させる機会を設けても(公的に)いいかもしれないとかんがえたりする。
 ご存じのとうり、幼稚園は文部科学省の管轄だが、保育園は厚生労働省の管轄で、関連する法規も異なる。学校教育法や幼稚園指導要領などで規定される幼稚園と異なり、保育所児童福祉法によって規定される。
 じつは幼保一体化という流れもあるのだが、どうも学習内容に関しては私立幼稚園などのことを考えると、捉えきれないほど多岐にわたる。これがそもそも問題なのかもしれないが、やはり文字言語の習得時期の問題にしても、何か新しい試みを幼稚園で足並みそろえてやるということが難しい状況はある。