No.48 完全習得理論と適正処遇交互作用

①完全学習理論
 マスタリーラーニングとも呼ばれる考え方。エリート教育が社会の進歩を目指したものであるとするならば、大衆教育は社会の治安の維持のためにある。近年、基礎・基本の重視が叫ばれている現状は、社会の治安の維持と深く関係している。
 それほどまでに学習者の学力差が明確で拡大していることを表しているのかもしれない。
 こういった流れの中で改めて、完全学習理論、(完全習得学習ともいうが、訳し方の違い)の考え方が暗に支持されている。
 完全学習理論とは、簡単にいえば、学力を全ての子どもに身につけさせるためにはどうすればよいのかということを考えていくことである。落ちこぼれを出さないようにするためにはどうすればよいかという問題である。
 できる子とできない子の違いをどのように考えるのかということでもある。これを本質的な能力の違いであると考えれば、落ちこぼれが出ても仕方がないという考えに行き着くだろう。
 しかし、「学習行為」を支える様々な要素に目を向けてみると、本質的な能力以外にも、できる子とできないこの違いを説明することはできる。
 例えば学習方法であり、例えば学習速度であり、学習形態である。経験から学ぶことが得意な子もいれば、理屈を先に教えてもらって試してみる方が好きな子もいる、ゆっくりと学ぶのが合っている子もいれば、どんどん進のが好きな子もいる。学びには個々人の速度がある。また、学校で学ぶのが合っている子もいれば、一人で学ぶのが合っている子もいる。
 しかし学校では集団学習を組織するためにどうしても、ある学習に対して一つの方法や速度、形態を取らざるを得ない。故に落ちこぼれが出ても仕方がないのである。
 そこで、できる限り学習者個人の学習傾向を把握し、その子その子に適した学習を組織することで全ての子どもに学習効果を得ようとする考え方が完全学習理論なのである。
 とここまで書いて、ふとそれは理想と思う、でも教育は理想だという人は多い。限りなく完全を目指すことは非常に大切なことだと思う。

 

 

②適性処遇交互作用
 ATI(Aptitude Treatment Interaction)の日本語訳。処遇とは先にも述べた学習方法や学習の速度、教材などを指している。適性はことば通り学習者の学習適性。つまり、適性と処遇との関係を考えた場合、それは非常に深い相関関係を持っているということである。
 この考え方は、完全学習理論の考え方の核心にあるものだということは①の項目で述べたとおりである。結局、子どもにあった学習を追求していく必要性があるということなのだが、先にも挙げたディレンマをどう乗り越えるかという点がもっと実践的な課題である。35人いるクラスで35人それぞれに適した学習を組織することは現実的には不可能だということをどう乗り越えるのかということである。
 これは学校の理想と現実の矛盾するところでもある。全ての子どもに学力保障をすると掲げても、相当難しい。
 解決の方法として、授業外の時間を利用する方法がある。補習をしたり、宿題を出したりする方法である。しかし補習は不審者対策で一斉下校する学校が増え、現実的には難しくなっている。宿題はそこまで学習の幅を広げたものを設定できず、単にトレーニングを求めてしまいがちなのでやっぱり困難である。
 次に習熟度別クラスではなく処遇別クラスを設定することが考えられる。これが一番筋が通っているように思うのだが、これを実際に行おうとすると教師が今の三倍は必要となる。高校くらいならできなくもないか。
 そこで、bestからbetterに切り替える。
 一つは処遇の類型化を進める。加えて、現在より多くの学習者が適していると考えられる処遇を選択する。これにさっきの処遇別クラスを縮小して組み合わせると効果が出るのではないかと考えている。

 

 

③ だから評価方法に教師は習熟しなければならない。
 教員研修では、学習者の学力を捉える観点と方法を先ず第一に身につけてもらうようにしている。そうしないとどのような教材でどのような学習を行う事が必要かが見えてこないからだ。
 その次に、処遇、つまり授業のやり方の類型を理解してもらいながら、自分のクラスの子どもに適した授業のやり方を模索してもらう。当然、学習者が慣れてきたり飽きてきたりするので、様々なやり方を組み合わせてもらうのだが。
 評価することはこういった、授業パターンの適性を捉えるためや必要な学習を捉えるために行われることが本来の目的である。ゆえに教師は評価方法に習熟しなければならない。