No.61 ケースワーク

①ケースワークの重要性
 近年、教員採用試験にもケースワークに基づく出題が見られるようになった。教育現場で起きる様々な問題にどのように対処するかを問うことで、受験者の教員としての問題解決能力を測ろうとするものである。
 こういった試みの初期段階は、生徒指導における問題や学校生活の中で生じる問題に関する出題が傾向としては強いのだが、それも何年かする内に問題自体が行き詰まってしまうので、どうしても教科指導における問題にどのように対処するかという点に移行する。
 いうまでもなく、ケースワークによって得られた対処方法は、学習者を中心とする当事者が個々に異なるため直接的に適応できるわけではないが、応用して適応するにしても、やはり支えとなる知識や方法を自分が身につけているかどうかと言うことを捉えるには効果的な学習方法・研修方法といえる。

 

 

②ケースワークにおけるポイント
 ケースワークに提示される問題は、基本的に欠落のある文脈である。特に、問題が生じてくるプロセスは省略され、生じた問題だけが提示される傾向が強い。ゆえに問題に対処する側としては、まず、提示された問題がどのようなプロセスで生じてきたものかを推論し、いくつかの可能性を見出さなければならない。
 この作業が、課題に対する慎重で分析的なパフォーマンスとして分析される対象となる。教員研修でケースワークを行う場合にもこの作業を参加者と行うことで、現在生じている問題をいかに分析するかという点を学んでもらう場合が多い。ゆえに教員採用試験では、この作業を言葉にして表現できるかどうかが、まず第一関門となる。往々にして、解決に向けてどのような取り組みをするかという点だけ述べる受験者が多いが、聞いている側としては、様々な可能性を無視して強引に解決しようとする姿として映ってしまう。

 

 

③ケースワークの実例
事例:漢字とひらがな、カタカナを混ぜて使用する小学校低学年の児童に対してどのような指導を行いますか?

STEP1 事例を分析し、条件に応じた原因を模索する。
パターン1
 漢字を表音文字として理解しているケース
 「化用火」など習いたての漢字を使用することにうれしさを感じるあまり、該当する音に対して漢字を無作為に当てて表記していることが原因と考えられる。
パターン2
 ひらがなとカタカナの使い分けの決まりが理解されていないケース
「といレ」や「がっこウ」など、主として名詞の表記に対して、統一した表記をする決まりを理解していないことが原因であるケースや、和語と外来語による使い分けが理解されていないことが原因によると考えられる。
パターン3
 漢字を表意文字として理解していないケース
「火いて」、「ある九」など文脈や語句の意味に即して、意味の適した漢字を当てはめることに意識が向いていないことが原因と考えられる。

STEP2 原因に対応してパターンに応じた指導法が提案できる

パターン1 
 漢字が表意文字であることを理解させるために、視覚資料(図・絵)などと漢字の形 を照合させながら、漢字が意味を表すための文字であることを理解させる。
パターン2
 ひらがなとカタカナの使い分けの決まりを教えるとともに、名詞を中心とした表記の一貫性の決まりを教える。
パターン3
 動詞や形容詞などイメージ化しにくい語彙を対象として文レベルで意味を理解させ、そこで使うことのできる漢字を選択させるトレーニングを通して、文脈に即した漢字の使用を理解させる。

STEP3 具体的な指導や練習方法を考える

という三つのステップで提示された問題にアプローチする必要がある。このように見てくると、step3だけを提示することがいかに雑な対応であるかが分かる。学生の内に様々なケースワークをこなしておくことしか対処方法はないと思うが、それは教員採用試験のためではなく教育現場に出て様々な問題に対処していく力量を身につける学習だと考えるべきである。こういった学習は、自分自身でもできるし、研究会などを持って行うこともできるが、やっていなくてもできるようなものではないことは言うまでもない。